花の名前としてだけでなく、世界記憶を意味するアカシックレコードをほのめかしているタイトルにも心引かれるが、アルバムに通底しているのは地に足がついた空気感。世紀末の混沌（こんとん）を乗り越えて、2000年代に入ったこともあってか、落ち着きを感じさせる詩世界とユーミンの一側面でもあるトライバルな世界観が丁寧に結実し、内省的な佳作に仕上がっている。フォルクローレの唱法と旋律を生かした"哀しみをください"のノスタルジックな風景や、"acacia［アカシア］"のバックに流れるバンジョーとジューズハープの独特の響きで心の琴線に触れつつ、m-floのLISAとの共演曲"リアリティ"では、スパイ映画のサウンドトラックさながらの緊張感のあるR&Bトラックで魅了する。また、"Age of our innocence"は、それまでの数作で模索していた、アンビエント感を持ったリズムトラックに歌を重ね合わせる実験がポップに昇華された名品。アルバムのラストを締める、公私共にパートナーである松任谷正隆のピアノに寄り添うように歌をつづる"PARTNERSHIP［after］"の、人生の伴侶に捧げたシンプルな言葉が心を打ち、作品に長い余韻を残す。