For.

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「結成10周年イヤーに出すアルバムなので、後から何度も聴きたくなるように、肩をぶん回して作りました」。sumikaの4作目となるアルバム『For.』について、片岡健太(Vo/G)はApple Musicに語る。 10周年という節目を迎え、バンドとしてますます充実度を高めているsumika。1年半ぶりとなるオリジナルアルバム『For.』は、彼ららしいポップなロックやエモーショナルなバラード、そして新機軸のエレクトロサウンドまで、多彩な14曲が収録された。「これが最後の作品になっても後悔のないようにっていう気持ちで作っています」と片岡は言う。「この一作を聴いてもらえたらsumikaがどういうバンドかを分かってもらえるようなものを過不足なく入れたかった」。片岡の言葉を継いで、小川貴之(Key/Cho)も語る。「今までのバンド人生、音楽人生の中で、得たものや学んだものをすべて出し切ったら、バラエティがとてつもなく豊かな作品になりました」 タイトル『For.』に付いたピリオドには深い意味がある。片岡は言う。「僕たちはなんで音楽を、sumikaというバンドをやっているのかをメンバー全員で考えたくて、“何のために”という意味の『For』を付けました。そして僕らは、音楽を続けていくことをメンバー全員の共通目標としているので、そのためには今何をしなきゃいけないのかを考えたかった。それを話し合う中で、まずは僕たちのチャプター1を終わらせようということになりました。その区切りがあって、そこで初めてこの先の5年、10年が見えてくるんじゃないかと思ったんです」 「終わらせること」をテーマにしたとき、メンバー全員の覚悟が決まったと小川は言う。「重いテーマに聞こえるかもしれないけど、集大成を見せるにはこれ以上ないテーマだなと思って。しっかり終わらせるという覚悟があれば、今まで培ってきたものをすべて出し切る意識を強く持てる。その覚悟の下で作ったので、かなりの大作になったんじゃないかなという自負があります」 「Porter」には、“Sing for me & Song for you”という印象的なフレーズがある。これはsumikaというバンドのスタンスを表した言葉であると片岡は説明する。「そもそも僕らって誰かのために曲を作ってるわけではない。自分が救われたいから、自分のために音楽を作っていて、それがもし同じ境遇にいる人に対して刺さったら奇跡だと思うし、感謝を感じる。だから『自分のために歌っているんだけど、それがあなたのためにもなるんだとしたらすごく幸せなことだよ』とこの曲で歌っています」 sumikaを続けて10年。片岡は「何を作るかということはもちろんですけど、誰とやるか、自分がどんな人でいるかというのは同じぐらい大事なことだと思っている」と言う。そして「一緒にいて楽しいメンバー、スタッフと共に音楽をやれるのが本当に幸せ。いつもメンバー同士、楽屋で高校生みたいな会話をしてるんですよ」と笑う。その強い絆の下に生まれた10周年のアルバム『For.』について、以下、いくつかの楽曲を片岡と小川に解説してもらおう。 New World 片岡:メンバー全員、満場一致で、これを1曲目にしたいよねと話しました。今ってアルバムを全曲通して聴いていただける機会ってものすごく少ないと思うんです。だからこそ1曲目の歌い始めで伝えたいことを全部言っておかないと。ここでちゃんと伝え切らなければと思って、ある種いい意味で急いで、焦って作ってる感じもありました。 Glitter 小川:片岡さんからデモ音源をもらって、まずイントロから作り始めました。片岡さんの曲にピアノを入れる時間ってすごく楽しいんですよ。僕はsumikaに入ってからこういうスウィング感のある楽曲をプレイするようになったんですけど、姉がいつも家でジャズピアノを弾いていたので自然と体になじんでいるし、弾くのも楽しいです。 Babel 片岡:2021年に山中湖で合宿して、メンバー全員でいろいろ音を出しながら「何か新しいことやりたいよね」と話し合いました。それで「ここで鳴ってない音を足すのが一番新しいんじゃないか」という結論に至った(笑)。そのひねくれ感がsumikaらしいなと思います。 小川:どんな音を出しても、メンバーがやればすごくsumikaになるんですよね。それも全部取っ払ってゴリゴリに攻め切ろうという話になり、TeddyLoidさんにアレンジをお願いしました。音源が届いた時はテンションが上がって、大笑いするぐらいうれしかったです。超かっこいいと思いました。 透明 / 言葉と心 片岡:言葉って難しいですよね。例えば“ありがとう”とか“好きです”という言葉は世の中にあふれているけど、誰かに言わされている“ありがとう”や、だますつもりの“好きです”は絶対ばれると思う。言葉の中に何を詰めているかがコミュニケーションにおいて何より大事。僕自身、なんとなくみんな使うから使っているけど、これは本当に正しい言葉なのかなと考えることもあったりするので、言葉の一つ一つをちゃんと見つめ直していかないと、と思っています。その気持ちをこの2曲に込めました。 Porter 片岡:スピッツの田村明浩さんにベースを弾いていただきました。それが決まった時は「わーい!」って家の中でマンガみたいなジャンプをしました(笑)。この曲は高校時代に軽音部でやってたような空気感を出したくて、そのためにも歌い出しのベースを誰が弾いてくれるかというのがすごく大事で。田村さんが弾いてくださると決まった時点でゴールがもう見えました。あのころの憧れや、ノスタルジックな感情を音に落とし込むことができたのは、田村さんのおかげです。 チョコレイト 小川:ゴスペルのアプローチをしてみたいなと思って、自分が作曲したこの曲でトライしました。僕はコーラスを一種の楽器だと捉えています。しかも、言葉を伝えられる特殊な楽器。メロディは“小川節”というか、僕の好きな曲調なんですけど、サウンド面ではいつもと違うアプローチができて、楽しいレコーディングでした。 Lost Found. 片岡:このアルバムのテーマであった“終わらせること”の結論を出そうという気持ちで歌詞を書き、タイトルにピリオドを付けました。一番最後にこの曲を入れることをメンバー全員で決めて、そこから曲を煮詰めていったんですけど、最後に何を伝えたらちゃんと終われるのかを見つけるのに難航して…。「また始めるために俺たちに足りてないものって何だろう」と考え抜いて、そこで見つけたのが“許す”ということでした。過去の自分に対して“あの時こうしてれば”とか“やっぱりあれが許せないな”と思うことがたくさんあって、それを今まで黒歴史のフォルダーに入れてふたをしてたけど、その全部を許して、認めてからでないと次に行けない気がして。その結論にレコーディング前日にたどり着き、それを歌ったら僕自身が浄化されたような気持ちになった。自分の人生で見つからずにいたものが、sumikaの10年目というタイミングでやっと見つけられました。

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