ユーモア

ユーモア

「いろんな角度からユーモアという言葉と向き合った4年間だったな」と、前作『MAGIC』から4年ぶりとなる7作目のオリジナルアルバム『ユーモア』について、back numberの清水依与吏(Vo/G)はApple Musicに語る。 このアルバムの制作にかけた時間を振り返り、清水は「4年間を必死に生きていく中で、自分たちや周りにいる人、本当にいなくなってほしくない人に必要なものを少しずつ詰め込んでいった」と言う。そしてアルバム全体を見通したとき、通底するテーマが“ユーモア”だった。「ずっとそれが一番足りなくて、一番必要なものだという気がするんです。大変なときでも自分の中でクスッと笑えるような楽しい瞬間を見つけるとか。そういうことをなんで俺はできないんだろうとたくさん悩んだりもしたので」。そんな彼の心を揺り動かしたのが、コロナ禍の2021年に届いたある手紙だった。 「その手紙は、インターハイを運営する高校生からでした。コロナによって競技もインターハイもできなくなってしまったけど、心が折れてしまった選手たちに何かしたいと。その声と向き合った時に、これは悲鳴だなと思った。そしてこの悲鳴に対して何もできないのはバンドじゃないよね、と思いました」。そして生み出した楽曲「水平線」は、困難な時を過ごす高校生、そして多くの人々の心を支え、そのことがバンドの力にもなった。「俺の人生はいつも、こうして誰かに促してもらって、重い腰を上げて行動して、やっと大事なものを見つけられる。ウダウダしたこともたくさんあるけど、それが俺だし、back numberというバンドなんですよね」 back numberはここから迷い葛藤しながらも、一歩ずつ進んでいった。「とにかく言っちゃいけないことが多すぎるんです」と清水は困ったように笑う。「なんていうのかな…『水平線』でも歌っているんですけど、人を思うがあまり、優しくあろうとするあまり、人に厳しくなってしまうこともあるし。それがすごく苦しいなと思いながら、向き合わざるを得なかったですね」。思案する日々の中、もっとも鬱屈(うっくつ)したムードが出たというのが「Silent Journey in Tokyo」だ。「ギターソロはすごくしんどい時に家で弾いたんです。それはもうスタジオで再現できるようなものじゃなかったので、その時の音を加工して使ってます。本当に家の中の鬱憤(うっぷん)をそのまま出したような音が、このアルバムにはふんだんに使われています」 完成したアルバムを振り返り、「ユーモアって、宿るものだと思う」と清水は言う。「相手のことを思っていなければ、人はユーモアを発動しないと思うんです。俺たちが自分の中に宿るユーモアを見つけられたのは、あなたに出会えたからだよ、という思いが明確にある。その思いをもって楽しくライブをやりたいと思います」。ここからはアルバムについて、以下、いくつかの楽曲を解説してもらおう。 秘密のキス/ゴールデンアワー アルバムを作る上で最後にできた2曲です。このアルバムでやり残したことを3人で話し合い、「俺たち自身がライブで演奏して一番気持ちよくて、一番熱が宿る曲を作ろう」と。シンプルな楽曲なんですけど、3人で音を出しながら思いつくことをそのまま素直にやろうと思った結果、自分たちが得意だと思っていることがちゃんと抽出できました。 黄色/アイラブユー 歌詞を書く上で、心の中を描くことに没頭するがあまり、自分の思うような情景描写がうまくできなかった時期がありました。情景描写はすごくデリケートな表現で、例えば「黄色」には“交差点”が出てきますが、その交差点をどんな思いで見つめているのか、どんな思いでそこに立っているのかを明確に表さないといけないと思う。だからいつも緊張しながら書いています。『ラブストーリー』より後のアルバムでは精神的な描写がすごく増えましたが、この2曲はまたあえて情景描写をやろうというモードになれた曲です。 ベルベットの詩 一番苦戦した曲です。最初にタイトルの“ベルベット”だけがあり、そこからたくさん寄り道して、途中で物語調にしようとしたけどうまくいかなくて。それなら自分がずっと言ってること、自分の中でベタな部分をもう一度見つめ直そうと思い、そこでやっと素直になれたことで、また新たな曲も書けるようになりました。 ヒーロースーツ プロデュースしてくれたsugarbeansさんは、back numberのポップという言葉を一新してくれました。これまで自分たちは3ピースバンドの枠組みから出ていないなという意識があったんですけど、この曲は「俺らがどういうバンドとか気にしないでいいんで、ぶっ壊してください」というテンションでお願いして、思った以上のものになりました。 水平線 このアルバムはこの曲から始まりました。コロナの影響抜きでは生まれなかった曲だから、すごく難しい角度で付き合っていかなきゃいけない曲でもある。あの苦しい状況でいろんな楽曲が生まれたけれど、だからといってコロナがあってよかったということには絶対にならないので。でもライブで演奏したときにすべてを全肯定してくれるような大きさを持った曲でもあり、そこに俺らもバンドとしてたくさん救われている。だからこの曲を最後に入れるのがいいだろうと話し合って決めました。

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