夢

京都から登場したキセルは、辻村豪文(兄)と辻村友晴(弟)との2人による兄弟ユニット。 MTRやサンプラー、はたまたミュージカルソウ(のこぎりを使った楽器)を駆使したローファイなバックトラックに、一度聴いたら忘れられない独特なメロディが乗るキセル印の楽曲からは、本場アメリカともまた違う、彼ら独特のサイケデリアが陽炎のように立ちのぼる。本作は、そんな彼らのファーストアルバムだ。ミュージカルソウが、その浮遊感をいっそう際立たせる "ハナレバナレ" に始まり、過剰なエコーがドリーミーさを加速させる "夢のいくら"、ドラヘビ内田直之の遠慮のないミックスが痛快な "夜間飛行"、ディミニッシュコード使いが壮大な "火の鳥~保谷編~" など、ダブ的音像処理や、おもちゃの楽器のような効果音などのあらゆる「遊び」を可能にしているのは、まぎれもなく、伴奏がなくてもそれだけでもリスナーの耳に残る強度を持ったメロディと、それを歌う辻村兄弟の声があってこそだ。また、"ほろほろ" に見てとれる、ハットからバスドラまでをていねいに打ち込まずとも、何かしら印象的な音が、ある拍で鳴ることだけで立派なバックトラックになってしまうという、このある種の「発明」からも、この兄弟がいかに柔軟かつ、先入観のない原始的な視線で音楽制作に向き合っているかが伝わってくる。

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