billion voices

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この異才のポップな側面が大いに詰まったアルバムである。3枚組「911 FANTASIA」(2007年)からひさしぶりにリリースされた本作は、今までの七尾の作風に比べ、開放的で明るいトーンが漂っているのだ。中年男が会社を辞めてロックスター宣言をする “I Wanna Be A Rock Star”、地元の風景から世界を思う “シャッター商店街のマイルスデイビス” など現実離れした発想の歌も多いが、その中でも主人公は歌、音楽への希望やロマンを込めている点で共通している。とくに曲ごとにさまざまな登場人物が現れる前半は、ラッパー・やけのはらとのコラボで話題になった “Rollin’ Rollin’”、Salyu が参加した “one voice”、“検索少年” などキャラ立ちがくっきり。「数十億の声」とのアルバム・タイトルは、ネット社会のおかげで世界中から多くの声が聞こえてくるようになった現況から来ており、そこで七尾が感じる喜びが全体のトーンにポジティヴィティをもたらしているようだ。後半はシンガー・ソングライターのような私的な曲が並んでいるが、いずれの曲も音色はマイルドで、優しい。また “beyond the seasons” に参加しているギタリストの内橋和久が仲介役となり、UA の耳に触れた “私の赤ちゃん” は、彼女のカバー版(アルバム「KABA」収録)のほうがひと足先に世に出ている。軽やかでバラエティに富んでいながら、表現者・七尾旅人の真髄をしっかりと刻んだ作品だ。

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