演歌歌手にポップ系の歌をカバーさせる企画は数あれど、中でも珠玉の一枚といえる作品。制作のきっかけは、CMでビリー・バンバンの "また君に恋してる" をカバーしたのが好評を博したこと。取り上げられているのは70年代から80年代にかけての歌謡曲やフォーク、それも坂本自身が昔から親しんできたラブソングばかりで、中には BORO の "大阪で生まれた女" やイルカの "なごり雪" のようにかねてからステージで歌ってきた曲も多い。ヴォーカルについては、いかにも演歌的なこぶし回しは意識的に抑え、シティポップ風にアレンジされたユーミンの "あの日にかえりたい" など、サラリとした聴き応えの楽曲が多い。かつて、忌野清志郎、細野晴臣という日本を代表する音楽家たちとの伝説のユニット HIS で、ポップスの極意を教え込まれた坂本冬美の力量がナチュラルに示された作品でもある。