MAKTUB

JJJ
MAKTUB

川崎出身のラッパー/プロデューサーであるJJJの6年ぶりとなるサードアルバム『MAKTUB』は、自身のアイデンティティを揺るがす、いくつもの出会いと別れ、それに伴う途方もない痛みからの再生を描ききった作品だ。「この6年の間にコロナもありましたし、自分のプライベートにもいろんなことがあって、言葉が、ラップがまったく出てこない時期がありました」と、JJJはApple Musicに語る。「ただ、そんな状況下にあってもビートだけはどんどん生まれて、我ながら驚きました。そして、コロナ禍にあって、周りは音楽以外のビジネスを考えたりしていたんですけど、自分は不器用だし、音楽しかないんだなと思わされて。だから、自分の中で腹が決まった期間でもありました」。「Cyberpunk」に象徴される独創的なビートメイクに加え、胸の内で暴れ回る感情に突き動かされるままに研ぎ澄まされたラップがあふれ、ほとばしっている。「今回のリリックには“溢(あふ)れる”という言葉が何度も出てきています。その言葉通り、その時々のきっかけがあってあふれたもの。そのあふれたものでこのアルバムのすべてができていると思います」。ここでは、JJJがアルバム各曲に込められた思いやエピソードについて語ってくれる。 Synthese Freestyle 2022年の師走に作っていた曲です。自分の中で固まってること、まぁ、いつも歌っていることなんですけど、師走でアガっていくノリをフリースタイルでラップしました。ビートは変わった作り方をしていて、自分の声にプラグインで何重にもエフェクトをかけたりして。初めて自分の声を楽器のように扱いました。 Cyberpunk feat. Benjazzy ワンループのサンプルのスケッチがもともとあって。ある日、家に遊びに来たトークボクサーのKzyboostと一緒にビートを作っていた時、彼がMoogベースを入れてくれたことをきっかけに一気に出来上がりました。ちょうどその時、ゲーム『Cyberpunk2077』をやっていたこともあって、そのゲーム音楽と曲の世界観が重なったことも完成の後押しになりました。フィーチャリングで参加してくれたBenjazzyは以前から一緒にやりたくて、何度もビートを変えてチャレンジしていたんですけど、なかなか決まらなくて。でも、このビートを渡したら、すべてが一瞬でハマったというか、その手応えが本当にうれしかったです。 July feat. sogumm 以前、共演したラッパー、Ugly Duckと制作するべく、韓国のレーベル、AOMGのスタジオに行きました。そこはいろんなアーティストが出入りしていて、そのうちの一人がプロデューサーのouidaehanでした。彼とはすぐ友達になって、ストックから一番新鮮に感じたビートを選ばせてもらったら、そこに仙人掌とも共演しているシンガーのSOGUMMが現れて。1時間もかからずにその場で書いたフックを録音して、風のように去っていきました。その韓国旅行がきっかけで生まれたポジティブなリリックも気に入ってます。 Eye Splice プロデューサーnoshは、自分も参加したKID FRESINO「Turn.(who do)」を手掛けた昔からの友達です。自分が好きなドリルの曲を何曲か聴かせたら、すぐに自分なりのドリルの手法を体得して、驚かされました。タイトルは2本のヒモから1本のヒモを作る結び方のことで、自分が好きなラッパーIce Spiceを引っかけつつ、リリックでは人生にはいいことも悪いこともあるということをうまく落とし込めたかなと思います。 心 feat. OMSB この曲はSTUTSのために作った曲です。あいつが俺を飲みに誘う時はいいことがあった時か悪いことがあった時のどちらかで。ひとしきり話した後、じゃあ、曲を作るしかないねとなって、その日にもらったビートです。参加してくれたOMSBくんはVaVaちゃんと共に自分が病んでいた時の心の支え。ゲーム仲間で、誘ったのも一緒にゲームをやっていた時でした。こんな最高な客演を残してくれて感謝しています。 STRAND feat. KEIJU コロナ禍にあって、生まれてこようとしていた自分の子どもに対して手紙を残すように歌った歌です。赤ちゃんをあやしながら分断した世界をつなぐゲームがあるんですけど、その象徴的な武器が“STRAND”、つまりヒモなんです。つまり、自分が置かれた状況とゲームがつながって生まれました。KMさんのビートに対して、KEIJUは最高な歌を入れてくれました。 Friendskill feat. Campanella ラッパーのCampanellaは、KMさんの「Filter」でも共演していますが、この曲に入れてもらったラップに食らってしまい、自分が返せなくて、だいぶ時間がたってしまいました。だから、タイトルはダブルミーニングになっています。ここまで仲良くなってなかったら、俺は生きてなかったんじゃないかなというくらい、Campanellaの遊び方や考え方には影響を受けました。 Taxi feat. Daichi Yamamoto 以前から2ステップの曲がやりたかったんですけど、当初全然違うタイプのビートを作っていた時にできたイントロパートに触発されて、音を引いていったら現在の形に落ち着きました。Daichi(Yamamoto)にあげるつもりで作っていたんですけど、あまりに気に入りすぎて自分のものにしました。この6年で、USヒップホップ以外にも目が行くようになって音楽性の幅が広がりました。 Scav KMさんに2ステップの曲がやりたいんですと話したら、送ってくれたビートです。グルーヴが軽快なのでラップしやすかったんですけど、時間がたった時、もっとうまくできると思ってレコーディング終盤まで試行錯誤しました。タイトルの「Scav」はFPSゲーム『Escape from Tarkov』に登場するキャラクターから取りました。いろんな落ちているものを拾って生きていく感じが自分に似ていると思ったんです。 U feat. C.O.S.A. この曲は最新の俺ですね。C.O.S.A.くんがギリギリまで諦めず一緒に曲やろうと言ってくれたことで生まれました。いろんなビートを聴かせた時、この曲にぱっと反応して、テーマは女の子だねって言われたので、ありがとうございますとだけ返してリリックを書きました。そう言われなかったら、いつもの調子で書いていただろうし、テーマを設定することがまれな自分にいい機会をもたらしてくれたことに感謝しています。 Mihara 最初のバースまでは家で書いて、曲を書いている最中にSTUTS「Voyage」のミュージックビデオを撮りに伊豆大島へ行って。現地の宿でまたリリックを書いていたら、どんどん止まらなくなったんです。内容的にも都内の話から急に伊豆大島の三原山の話になるんですけど、その飛び具合が気に入ってますね。この曲と「U」、「Something」は自分で初めてミックスしたんですけど、いい経験になったし、自分の作りたい音が完璧にできたと思います。 Verdansk コロナ禍が始まったころ、街に誰もいなくなって、寂しさを感じる中、この曲で一緒にビートを作った(DJ)SCRATCH NICEやGRADIS NICEと一緒にFPSゲーム『Call of Duty:Warzone』をやっていて。「Verdansk」というのはそこに登場する人気マップの名前なんですけど、リリックで歌っている当時の思い出を含めてタイトルを付けました。 Something feat. Campanella ニューヨークから帰ってきたSCRATCH NICEと福岡の志賀島で合宿しながら作りました。ビートができて、その夜に海を眺めながらリリックを書きました。その時現れた緑の流れ星を鮮明に覚えてます。「あの葉が落る/その瞬間のスローモーション/描きたいだけ」という一節があるんですけど、自分は何かが壊れる瞬間に格好良さを感じるというか、その瞬間を書きたいなといつも思っています。 Jiga この曲はネガティブそのもの。離婚した時の心境をそのまま歌いました。別に隠すつもりはなかったんですけど、そういうことを歌うのはダサいじゃないですか。でも、表現しないと次に行けないなと思ったんです。一緒にビートを作ったSCRATCH NICEがニューヨークで友達に紹介してもらったゴスペルオルガン奏者のJgkeyzが弾いてくれて、そのサウンドに落ちた気分がアゲられたというか、結果としてこの曲でのトライアルが自分の力になってよかったです。 Beautiful Mind ビートは亡くなったFEBBによるものです。かなり昔からあって、ずっと大好きなビートだったし、あいつも気に入っていたので、こうして作品に入れられてうれしいです。このアルバムにはFEBBのことがあちこちで出てくるんですけど、あいつのことを歌うのは飽き飽きしているのに、それでも出てくる。ただ、どれだけしつこいと言われようが、FEBBの話はずっとするつもりです。 Maktub feat. SPARTA アルバムタイトルでもある『MAKTUB』は何年も前に読んだパウロ・コエーリョの小説『アルケミスト』に出てきたアラビア語で、“書かれている”という意味です。その小説では、答えはあなたの顔に書かれているというような使われ方をしていて、自分もすぐ顔に出てしまうタイプだから、ぴったりなんじゃないかなって。フィーチャリングで参加してくれたSPARTAのフックは、この曲を壮大なものにしてくれました。 Oneluv リリックに出てくる「人は苦しみと生まれた」という一節は佐々木(KID FRESINO)の言葉なんです。2021年、当時の自分は相当に病んでいたんですけど、名古屋のライブに向かう車中で、2人で話していた時に「俺らは苦しむために生まれてきたんですよ」と言われて。すべてが腑(ふ)に落ちたというか、そこからマインドが切り替わったんです。それがうれしかったし、この曲では佐々木だけでなく、ビートを提供してくれた16FLIPやいろんな人たちのことが頭に浮かんで、ありがとうという気持ちが自然とあふれてきたんです。

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