NYのクイーンズ育ちのラッパー、Nas が1994年にリリースしたデビューアルバム。DJ PREMIER、ピート・ロック、Qティップ、Large Professor という1990年代のNYのヒップホップの音作りのトレンドをけん引していたプロデューサーがそれぞれの代表作と呼んでも過言ではないトラックを提供して話題になったが、最大の聴きどころはやはり Nas のラップ。荒廃したストリートの現実をその真っただ中にいる視点からリアルに描き出す。生々しさと詩的なセンス、卓越したライミングを兼ね備えたリリックをハスキーな声質でクールに聴かせる彼のラップは、西海岸のギャングスタ・ラップの全盛期だった当時のシーンに強烈なインパクトを与え、デビュー作ながらシーン屈指のリリシストという評価を決定的なものにした。ラップの面でもサウンドの面でも一切隙がないヒップホップ濃度と完成度の高さを誇り、オーセンティックでありながらフレッシュな魅力もあふれるクラシックアルバムである。