月天心

月天心

ビッグ・ヒット "もらい泣き" を収録したデビュー盤。その効果で多くのリスナーを獲得した作品である一方、このシンガーの原点といえそうな重要曲が収められている点こそ見逃せない。一青 窈は、主に自身の体験を元に詞を書くアーティストで、先述の "もらい泣き" は友人の涙が発端だと言われている。同曲の「ええいああ」という唄い回しなど、語感や言葉の響きなどの感覚で語彙力を発揮する特徴もこの人の個性。当初はそうした特異な存在感のほうが先行していたが、音楽のほうは奇をてらうこともなく、いたって誠実な作品という印象。第一作ということもあってか多様なアレンジが並ぶが、基本線は一青の育成役を担ってきた武部聡志のピアノを携えた精緻な歌世界だろう。台湾人の父と日本人の母のあいだに生まれ、若くして両親を亡くしている彼女の作品には、身近な人間との間の愛情をテーマにした曲が多く、とくに家族愛に言及した "アリガ十々" などは聴き応えが深い。締めくくりは、かねてから唄い続けてきたという台湾の民謡 "望春風" 。この歌が幅広い世代に愛されたのは、現代の日本人が人間として当たり前の感情を置き忘れそうになっていた背景があるのではないか。

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