叙情的でリリカルな世界観をメロディアスなラップで聴かせるアーティスト、Hilcrhyme。その存在を広く世に知らしめたのは、セカンドシングル曲である「春夏秋冬」だろう。大事な人と過ごすかけがえのない時間の大切さを、四季という時間軸に沿ってドラマチックに歌う。2009年に大ヒットを記録したこの曲に代表されるように、ヒップホップというフォーマットがありながらも、その枠に収まらない音楽性で幅広い支持を集めてきた。2000年代半ばに自主制作音源を無料配布し、それが新潟のヒップホップシーンを中心に話題になったことが注目を集めるきっかけとなった。ライミングやストーリーテリングなど、ラッパーとしての豊かな表現力がベースにある。その上で、ラップというボーカル形式だからこそ可能な表現を追求し、ラップならではの語感の心地良さをポップミュージックのコンテクストの中で巧みに生かす手腕がHilcrhymeの真骨頂だ。耳なじみのいいメロディと聴き取りやすい歌詞の中に高度な仕掛けを巧みに忍ばせながら、多くの人が共感できるメッセージを等身大の言葉で聴かせる。その音楽性は、2018年にDJ KATSUが脱退してラッパーのTOCのソロプロジェクトとなってからも、決して変わることなく人々を魅了している。