坂本冬美は歌謡界が誇る花形歌手である。デビュー曲の「あばれ太鼓」（1987年）や「夜桜お七」（1994年）など、数々のヒット曲を持つ彼女は歌手として高い人気と揺るぎない評価を得ており、伸びやかで力強く、艶のあるその歌声は無二の響きをたたえている。美しいたたずまいも大きな魅力で、舞台上での華麗な立ち居振る舞いは見る者すべてを引き込むほどだ。さらに興味深いのは、正統派の演歌歌手として認知されている一方で、坂本自身はポップやロックへの関心も強く、それが歌い手としての表現の幅を広げていることである。1990年代には細野晴臣、忌野清志郎と共にスペシャルユニットのHISを結成して活動を行い、2009年にはビリー・バンバンのカバーである「また君に恋してる」をヒットさせる。これが同年リリースのカバーアルバム『Love Songs ～また君に恋してる～』が生まれるきっかけとなり、以後このシリーズでは歌謡曲やニューミュージックの名曲に果敢にチャレンジしている。そして2020年には、自身がかねてからファンを公言していたサザンオールスターズの桑田佳祐が書き下ろしたシングル「ブッダのように私は死んだ」で、大きな話題を呼んだ。シンガーとして一つの枠にとどまらないほど好奇心が旺盛（おうせい）な坂本冬美。それもあって老若男女問わず絶大な支持を受ける彼女は、やはり当代を代表する花形である。