青森在住の秋田ひろむ（Vo/G）を中心とするamazarashiは「知る人ぞ知る」という立ち位置のバンドだが、そのあり方はおそらく間違ってはいない。秋田の書く曲は、世の大多数が共感したり、心を動かされたりするようなタイプのものではないからだ。その代わり、彼の音楽を必要としている人にはその心の奥底にまできちんと届き、響いてくれる。amazarashiのおかげで悲しい思いや心の傷が癒やされ、感情の隙間を埋めることができた人々は多いだろう。ライブではステージと客席の間に半透明の幕を降ろし、映像を投影することでスペクタクルな演出を生み出す。ライブでもお互いの素顔が見えないようにするその演出の背景には、秋田自身が感じている人間同士の関係の繊細さがある。メディアにも一貫して露出をしない彼の姿勢からも、その根底には人と人とはたやすく交われるものではない、という気持ちが垣間見える。ただ、秋田は決して人間に絶望しているわけではない。むしろどこかで信じようとしているからこそ、彼の歌は聴く者の心に響く。音楽作品以外にも、ミュージックビデオを含めた映像作品、さらに詩など、秋田の表現は多岐にわたる。そこで描かれるテーマには、光と影、生と死、あるいは善と悪といった、差し迫ったものが多く、amazarashiの最も知られている曲の一つ「季節は次々死んでいく」（2015年）もそうだ。それでも、彼は歌の中に希望の一言を残す。今日を、そして明日をなんとか生きようとする人たちのために。そのメッセージは、必要とする人たちにこれからも届くことだろう。だから秋田は、青森県の自室から今日も音楽を作り続ける。音楽の力と人間の心を信じて。