シンセサイザーを多用したリディムを見事に乗りこなす力強い歌声を武器に、ドン・オマールは、2000年代初頭に起こったレゲトンの世界的爆発を支えた重要人物の一人としてシーンに出現した。1978年にプエルトリコのサンフアンにあるバリオ（自治体）、サントゥルスで生まれたドン・オマール（本名William Omar Landrón Rivera）は、レゲトンが形作られた1990年代にはティーンエージャーだった。彼はLuny Tunesやノリエガといった先駆的なアーティストの下で育ち、生々しいミックステープを作りながら経験を積んでいった。2003年のヒット曲「Dale Don Dale」でブレイクするころには、ドン・オマールはすでに独自のスタイルを完成させていた。それは、単調なダンスホール風の歌／ラップと、フラメンコ風のトリルとともに披露されるメロディックなフックを織り交ぜたものだった。同年の「ディレ-言ってやれよ」では、レゲトンならではのドラムと別の島からやって来たバチャータを組み合わせ、プエルトリコサウンドの旗手としての自身の役割を証明した。ワーキングクラスのレゲトンサウンドは、依然として政府からは厳しい目を向けられているが、その事実もドン・オマールの成功をさらに際立たせている。2003年のデビュー作『The Last Don』に続く2006年の『King of Kings』は、ついに壁を突破して史上最高位のレゲトンアルバムとなり、ビルボードのラテンアルバムチャートで首位デビューを果たしたほか、ビルボード200で7位を記録した。だが、ドン・オマールは、慣れ親しんだスタイルに安住することには興味がなかった。2010年の「Danza Kudoro」ではポルトガル系フランス人のミュージシャン、LUCENZOとタッグを組み、レゲトンとアンゴラのサウンドを融合させた。オマールは2017年に引退を発表したが、2019年に『The Last Album』で復帰し、翌年にはバッド・バニーが楽曲「PA’ ROMPERLA」の共演に彼を抜てき。それはラテンダンスミュージック史におけるオマールの果たした大きな役割と存在を確認するとともに、次世代へと聖火が受け渡されたことを表していた。