キッスがブレイクするきっかけとなった1975年のライブアルバム『Alive!』は、「ベストなバンドを求めている君たちの願いがかなった…この世で一番ホットなバンドの登場だ！（You wanted the best, and you got it—the hottest band in the land!）」という大胆な宣言からスタートする。もし他のバンドが同じことを言っていたら、とんでもないホラ吹きだと思われていただろう。しかし、1970年代初頭にニューヨークから登場したキッスは、自分たちの大げさな発言の一つ一つをハードロックのサウンドで裏付けてきた。キッスのマッカートニー／レノン的存在である、ジーン・シモンズ（Vo/B）とポール・スタンレー（Vo/G）が、派手なステージメイクや宇宙の時代を想起させる衣装を素晴らしい楽曲と組み合わせるために努力してきたところが大きい。ブルース調のヘヴィメタルときらびやかなグラムロックを強烈に融合した初期のサウンドは、次第にパワーバラード（「Beth」）、ディスコジャム（「I Was Made for Lovin’ You」）、キラキラしたMTV向けのロック（「Tears Are Falling」）、さらには、賛否両論のあったプログレッシブロック（1981年のアルバム『Music from “The Elder”』）へと取って代わった。長年にわたって音楽もメンバーも変化していったが、それでもキッスの活動は全体的に驚くほど一貫している。彼らは自分たちのメイクを著作権で保護するという先見の明があっただけでなく、そのアイコニックなルックスを不朽のグローバルブランドへと変えてみせるといった、マーケティングのプロでもあったのだ。もちろん、キッスの音楽は高い水準を誇り、彼らは常に観客を楽しませる完璧なライブを提供している。2019年にスタートした公式のラストツアーは、感動的なステージプロダクション、シモンズの血を吐くパフォーマンス、大規模な特殊効果などキッスならではの演出が盛り込まれ、ヒット曲の数々をくまなくフィーチャーしたロングランのイベントとなり、最後の最後まで新たなファンをキッス軍団へと誘い込んでいる。