弄月記
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- ¥1,500
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発行者による作品情報
人も住まない山里の奥に、舞台に立てなくなった役者達が行く、役者の姥捨山があるという。月夜の晩には、骨がまた肉体をとり戻し、大木の下で語り合う……。芸道に憑かれた者の闇路を描く表題作ほか12編を収載。
APPLE BOOKSのレビュー
耽美かつ幻想的な作風で亡くなった今でもファンを魅了する作家・赤江瀑の12編から成る短編集「弄月記」。著者の美へのこだわりや、人の本質をついた彗眼などが際立つ赤江作品にあって本作も例にもれず、芸術に対する確かな造詣の深さを土台に、芝居役者や伝統芸能など芸事を極めた者たちの感情の起伏を描いている。作品によっては恐怖小説であり、謎めいた部分が解き明かされていく推理要素なども含む。京ことばのやわらかさ、江戸の下町の言葉の切れ味、現代語のやや冷やかなイントネーションなど、時代も地域も異なる舞台設定だが、どの物語も一貫した軽妙なリズムがあって心地よい。舞台に立てなくなった役者が行く姥捨て山を描く表題作、歌舞伎の花型役者と光の当たらない大部屋役者の残酷な対比に身震いする「しびれ姫」など、芸のために生きた者たちを待ち受ける残酷な末路に心が苦しくなる反面、そんな闇の部分にすら艶やかで美しい言葉が散りばめられており、ひたすらその世界に引き込まれる。表情豊かな複数の物語を楽しめる短編作品集をきっかけに、赤江瀑の生み出す妖艶華麗な世界を味わってほしい。