レトロなピクセルアートで描かれた岩場や森、雲。川面に景色が映り込み、波の広がりに合わせて土手や空、キャラクターたちが揺れ、ゆがみ、溶け合っています。画面の約3分の1を占めるこの名もなき川は、ただゲームの美しさのために存在しています。しかし、それは「Kingdom: New Lands」に欠かせない存在です。
川をはじめ、「Kingdom: New Lands」の美しいアートを生み出したのは、Thomas van den Bergさんです。オランダの個人デベロッパで、スタジオ名のNoioとしても知られています。元々、本作はNoioが開発したFlashゲームでした。それを気に入った、アイスランド在住のデベロッパのMarco Bancaleさん(またの名をLicorice)が、ゲームをより洗練させて、iOSへ移植しないかと持ちかけました。
Noioは、運河沿いに建物が立ち並ぶアムステルダムの街並みにほれ込んでいました。あの情感をゲームの背景絵で表現できたらさぞかしすてきだろうと考え、下のコンセプトアートを描き上げました。
“北のベネチア”とも呼ばれるアムステルダムは、運河が暮らしの一部となっている街。ゲーム内では、景色に映り込む川面の様子が極めて自然に再現されています。これらはNoioのアルゴリズムと、彼が「演算マジック」と呼ぶテクニックのたまものです。
このゲームの素晴らしさは美しさだけではありません。その中身は骨太な戦略ゲームです。王たるプレイヤーは、未開の地を馬で駆け巡り、コインを集め、軍や農業、商業などへ投資を行います。夜になるとモンスターが現れ、破壊の限りを尽くします。王は怪物と戦い、民を守らなければなりません。モンスターの侵攻を止められなければ、王が築き上げたものはすべてがれきと化し、忠実なる民は貧困にあえぐことになります。
苛酷な冬の到来や、農家を襲う凶作。それでも夜は容赦なく訪れます。時に、モンスターが破壊する様を、なす術なく見守るしかないこともあるでしょう。運よく一命を取り留めたとしても、油断は禁物です。生存をかけた戦いは、いつでも無慈悲で果てしないものなのです。ですが、生きる厳しさを真摯に描くゲームだからこそ、驚くような喜びの瞬間も味あわせてくれます。
オランダ人は千年以上水害と戦い続け、その中で世界でも類を見ない治水システムを編み出しました。かつてのオランダ人は、制御できない川を前に、時折どうしようもない無力感に襲われたかもしれません。「Kingdom: New Lands」をプレイしていると、飽くなき戦いに同じ絶望を抱くこともあるでしょう。このゲーム、果たしてクリアできるのだろうか、と。
もちろん、できます。到達するのは至難の業ですが、エンディングは確かに存在します。コインを慎重に管理し、断固として領地を守り抜き、数々の試練を乗り越えた王だけが、エンドロールを見届けることができるのです。