舞台裏

アートに命を吹き込む

Hidden Folks

可愛くて、おもしろい、けどどこ?!

表示

シンプルで可愛らしいモノクロアートと、エキセントリックな遊び心が魅力の「Hidden Folks」は、どこか「ウォーリーをさがせ!」を思い起こさせるゲーム。気分転換にもってこいの、2017年おすすめの1本です。しかし、この「アイテム探し」ゲームは、そのタイプのゲームが嫌いな2人のクリエイターによって作られました。

ゲーム開発者のAdriaan De JonghさんとSylvain Tegroegさんは、Tegroegさんの卒業展示会で偶然出会いました。その後2人は、すぐさま意気投合することになります。「一緒にゲームを作らないかって、軽い気持ちでSylvainに言ったんです」と、De Jonghさんは当時を振り返ります。この思いがけないめぐり逢いに、大きな刺激を受けたDe Jonghさんは、Tegroegさんのウェブサイトからアートワークを拝借し、自分が思い描くゲームのプロトタイプを、ごく短期間に作り上げたのです。数日後、Tegroegさんに見せると彼も気に入り、コンビによる試行錯誤の日々が幕を開けました。

一緒にゲームを作らないかって、軽い気持ちでSylvainに言ったんです。

「Hidden Folks」開発者 Adriaan De Jonghさん

De Jonghさんの狙いは至ってシンプルなものでした。それは、Tegroegさんのモノクロの世界に「さらなる命」を吹き込むこと。その方針に沿って、インタラクティブ性などのゲーム的要素を少しずつ足していくうちに、誰もがよく知る「アイテム探し」のジャンルへと進化していったのです。「ここだけの話、Sylvainも私もアイテム探しというジャンルが嫌いだったので、そのジャンルのゲームを作ろうとは、まったく考えていませんでした」とDe Jonghさんは話します。

となると、「Hidden Folks」は「アイテム探し」ゲームではなく、「インタラクティブ絵本」と読んだ方がしっくりくるかもしれません。このゲームには、プレイを急かすタイマーも、ゲームオーバーも存在しません。本作の中心にある思想は、モノをいじったり、突っついたりする楽しさを知ってもらうこと。ちょっとした秘密や、おかしなストーリーがたっぷり詰まったこのゲームでは、何よりプレイすること自体が本質なのです。「ステージクリアとは関係ない物を、偶然発見してもらえる世界を作ろうと考えました」と、De Jonghさんは言います。

「Hidden Folks」のステージはどれも、細部まで描きあげられたアートで構成されています。
ディテールが充実していくに伴い、ジョークや隠し要素も増えていきました。

Tegroegさんの遊び心あふれるアートは、一見シンプルですが、実はアイデアの集合体なのです。ゲームを作りあげていく手法もまた、驚くほど手の込んだものでした。Tegroegさんは「Hidden Folks」のために、6,000個以上のビジュアルアートを制作しました。スクリーン上の人、場所、モノはすべて、実際に積み木のように組み上げられていて、1台の車も単純な1枚の絵ではなく、いくつものパーツが複雑に折り合わさったもの。このやり方だと、パーツを組み立てる際に、同一のオブジェクトの別バージョンを作るのが容易でした。

「最近『Hidden Folks』に追加された工場ステージは、19,475個のパーツ、3,400個のインタラクティブなオブジェクト、921人のキャラクター、540種類のサウンド、28個のターゲットで構成されています。たった2人で、これだけのモノを作り上げるのがどれほど大変なことか、想像してみてください!」と、De Jonghさんは語ります。

それに比べて、このゲームの不思議なサウンドエフェクトを作るのはずっと簡単だったようです。「このゲームのサウンドはどれも、Sylvainと私がマイクに向かって叫びながら作ったものです」と、De Jonghさん。そもそも、これらの手作りサウンドは、あくまで「仮のサウンド」としてゲームに組み込まれていました。「驚いたことに、そのヘンテコ具合が、Sylvainのアートスタイルにばっちりハマってしまって。だったらこのままで行こう、となりました」。このゲームでもとりわけ強烈な印象を残すのが、プレイヤーが何かに触れると発せられる、不思議で予想外なサウンドの数々。De Jonghさんの判断は正しく、これらがゲームのビジュアルに命を吹き込み、より一層、個性と魅力に満ちた体験を生み出すことに成功したのです。遊び心や手作り感、ひねりの効いたジョークがてんこ盛りの「Hidden Folks」のすべてのステージからは、誰よりもクリエイター自身が、一番楽しんでいることが強く伝わってきます。

「Hidden Folks」のサウンドはどれも、Sylvainと私がマイクに向かって叫びながら作ったものです。

「Hidden Folks」開発者 Adriaan De Jonghさん

「Hidden Folks」でのTegroegさんとのコラボレーションをきっかけに、De Jonghさんは、次のプロジェクトへの取り組み方も考え直したそうです。「なにしろ、こんなに楽しい経験は初めてでしたから。今後のプロジェクトでも、コラボレーションの重要性は変わらないと感じています」と、De Jonghさんは付け加えます。

ダンスゲームの「Bounden」や、パーティー対戦ゲームの「Fingle」といった過去の作品に、「Hidden Folks」が加わった今、「App Storeでもっとも独創的なクリエーターのひとり」というDe Jonghさんの評価は、盤石なものとなりました。この比類なきクリエイターが、次はどんなパートナーとタッグを組むのか、今から楽しみでなりません。